最近の医学の研究によると、妊娠前や妊娠中に少しだけ注意することによりおなかの赤ちゃんの発育に悪影響をおよぼしたり、児が成人後に心血管の疾病、糖尿病になる、リスクを回避することができるようになりました。(エピジェネティクスの考え方)
子宮内膜症がある方は早産の可能性が2倍になりやすいので早めにご相談ください。
食生活
妊娠中の人は、バランスのとれた健康的な食生活を心がけることが大切です。
菜食主義者の女性は、貧血になりやすいため、血液検査を受けて、鉄サプリメントを摂取する必要があるかどうかを調べておきましょう。
カフェインを含む飲み物(コーヒー、紅茶、コーラなど)は1日6杯までに控えるか、カフェインを含まないタイプのものに変えるようにしましょう。
太りすぎの女性、特に多のう胞性卵巣症候群の女性は、体重を減らすことで妊娠率を高め、流産のおそれを小さくすることができます。
やせすぎの女性も体重を増やすことで妊娠率を高め、妊娠合併症のおそれを小さくすることができます。
肥満の人は帝王切開になりやすく、死産になりやすいです。
その上、著しい肥満(BMI>31.0)の人の児は脊椎破裂が2.6倍高く、その他の奇形(大血管の欠損、腹壁破裂、腸の欠損)も高いので、病院のような施設の整った場所での分娩が望ましいです。
葉酸サプリメント
食事から摂取する葉酸の量が少ない女性の赤ちゃんは、二分脊椎などの障害をもって生まれてくる可能性が高くなります。
これをふせぐために、英国保険省は、妊娠する予定のある女性は毎日400ug(0.4mg)の葉酸サプリメントを摂取するように勧めています。
体内に葉酸の蓄積させるため、赤ちゃんを作る4週間前から葉酸サプリメントを飲み始め、妊娠12週まで飲みつづけましょう。
葉酸サプリメントは薬局やスーパーで購入できます。
葉酸を多く含む緑黄色野菜や、葉酸を強化したパンやシリアルをとるように心がかけましょう。
てんかんの薬を飲んでいるひとや、二分脊椎の赤ちゃんを妊娠したことのある人は、より大量の葉酸(1日5mg)を摂取する必要があるかもしれないので、かかりつけの医師に相談しましょう。
喫煙と飲酒
夫婦がともにたばこを吸わず、受動喫煙を避け、1週間の飲酒量が6単※1 を超えないようにするならば、自然の妊娠率も不妊治療による妊娠率も高くなります。
※1「訳注」ビールで500ccの缶3本、日本酒1.5合、ワインは小さなグラスに3杯
薬と病気
妊娠中、特におなかの赤ちゃんの主要な臓器のほとんどができてくる妊娠初期の数週間は、薬を飲まないようにするのがいちばんです。
飲まなければならない場合は、その薬が悪影響を及ぼしたり、妊娠のさまたげになったりしないかどうか、かかりつけの医師や不妊治療クリニックに問い合わせるようにしましょう。
持病がある人は、赤ちゃんを作る前に治療法再検討してもらうか、変更してもらうようにしましょう。
糖尿病、てんかん、甲状線患、心臓病、血液凝固疾患のあるひとは、特に注意が必要です。
また、関節炎の治療に使われている薬のなかには、妊娠のさまたげになるものもあるので、別の薬に替えてもらう必要があります。
かかりつけの医師に相談しましょう。
赤ちゃんが欲しい人や妊娠中の人は、麻薬を使ってはいけません。
なかでも大麻は排卵を抑制し、コカインの胎盤を通って赤ちゃんへと移行して、中毒を引き起こすことがあります。
男性筋肉増強剤(アナボリックステロイド)を使用すると、筋肉量は増えますが、テストステロンが分泌されなくなり、精子を作れなくなります。赤ちゃんが欲しい人は、使用してはいけません。
感染症
①妊娠初期の数週間に風疹(三日ばしか)にかかると、胎児の発育に悪影響をおよばし、生まれてくる赤ちゃんに先天性風疹症候群(CRS)という障害を引き起こすことがあります。
子供の頃に風疹に感染した場合とは異なり、予防接種では必ずしも終生免疫は獲得できません。
ですから、血液検査をうけて風疹の抗体があるかどうかを調べておくことが重要です。
抗体がなかった場合には、もう一度、予防接種を受ける必要があります。ワクチンは風疹ウイルスを弱くしたものなので、予防接種を受けて2~3か月は避妊をしましょう。
その後、もう一度血液検査を受けて、免疫ができたことを確認します。
※「訳注」日本では予防接種法の改正によりワクチンの接種対象年齢が何度か変わっており、妊娠可能年齢で風疹ワクチンの接種を受けていない女性が少なくないので、とくに注意が必要です。
②トキソプラズマ症とクラミジア感染症
トキソプラズマ症は、トキソプラズマという原虫による感染症です。
感染者のほとんどは軽症ですみますが、妊婦からおなかの赤ちゃんへと伝えられると、赤ちゃんの目や脳に重障害を引き起こします。
トキソプラズマは猫や犬やヒツジに寄生しています。
猫を飼っているひとは、ふんに触れないようにしましょう。
それが不可能ならば、ゴム手袋をはめて処理をし、あとで手を洗いましょう。
トキソプラズマは土中にもいるので、庭仕事の際にも手袋をはめ、あとで手を洗いましょう。飼っている猫や犬が健康で清潔であったとしても、こられに触ったり、食器を扱ったりしたあとには手を洗いましょう。
クラミジア感染症は、クラミジアという病原菌による感染症で、性行為により感染します。
必ずしも症状を引き起こすわけではありませんが、卵管を詰まらせた、傷つけたりして、妊娠のさまたげとなることがあります。
胚が子宮腔ではなく卵管内に着床する子宮外妊娠を引き起こすことにより、それは命にかかわります。
クラミジアは赤ちゃんの健康も悪影響をおよぼし、結膜炎や肺炎を引き起こすことがあります。
クラミジア感染症かもしれないと思った人は、かかりつけの医師に相談しましょう。
抗生物質で治療できます。
海外渡航と予防
妊娠中や不妊治療中に海外に行く人は、食事と食品の衛生管理に気をつけましょう。
黄熱病、コレラ、腸チフス、ポリオなどのワクチンには病原体の毒性を弱めただけの生ワクチンを使っているものもあるので、目的地で感染リスクが高い場合にもに予防接種を受けるようにしましょう。
また、抗マラリア薬の中には妊娠中の使用に適さない薬もあるので、予防接種を受ける前に、胎児への影響について医師に確認しておきましょう。抗マラリア薬がもたらす予防効果は、この薬を使用しているためにおこる副作用よりもはるかに大きいと言えます。
不妊症
1)原因
原因不明な不妊症は約10%の夫婦に見られる。
男性側の原因は約40%である。
女性側の主な原因は下表に示しています。
不妊の原因 | 問題の所在 | 一般的な検査 |
---|---|---|
クラミジア感染症 | 卵管の損傷や閉塞 | 血液検査 子宮卵管造影 |
多のう胞性卵巣 | 卵や卵子の質への悪影響 | 超音波検査 血液検査 腹腔鏡検査 |
子宮筋腫 | 子宮内も腫瘍、 卵管閉塞 |
超音波検査 腹腔鏡検査 |
子宮内膜の問題 | 受精卵が着床できない | 超音波検査 子宮卵鏡検査 |
卵管の閉塞 | 精子と卵子が 出会えない |
腹腔鏡検査 子宮卵管造影 |
癒着 | 精子と卵子が 出会えない |
腹腔鏡検査 |
子宮内膜症 精子の数や形異常 管粘液の異常頸 |
癒着や嚢胞の形成受精できない 精子が頸間粘液の中で生き残れない | 腹腔鏡検査精液検査性交後検査(ヒュ-ナ-試験) |
2)検査
検査の目的
検査 | 検査の目的 |
---|---|
卵胞刺激 ホルモン(FSH) |
卵巣が卵胞を作る能力を調べ、卵胞の数を見積もり、黄体形成ホルモンの濃度とともに多嚢胞性卵巣症候群の有無を明らかにする。 |
黄体形成 ホルモン(LH) |
卵胞刺激ホルモンの濃度とともに多嚢胞性卵巣症候群の有無を明らかにする。 |
プロゲステロン | 排卵の有無を調べる(黄体機能) |
甲状腺刺激 ホルモン(TSH) |
甲状腺機能が低下していないかどうかを調べる(甲状腺機能の低下は生殖能力を低下させるため) |
プロラクチン | プロラクチンが過剰に産生されていないかどうかを調べる(過剰に産生されていると排卵や月経を抑制するため) |
精液検査 | 精子の有無とその質を調べる |
後検査(ヒューナー試験) 精子の機能と頸管粘液の質を調べる
性交後検査では、女性の頸管粘液の中で精子が正常に生き残っているかどうかわかります。検査は、排卵日少し前に行います。性交から12 時間以内に注射器を使って頸管粘液を採取し、すぐに顕微鏡で調べます。顕微鏡の視野ごとに運動性のある精子が5個以上見られれば正常です(正常とする精子の数は不妊治療クリニックことに異なります)。